冒頭のSnowman’s Coming (Cotton Candy Land) でガッチリ心を掴まれた。
恥ずかしながらエルヴィスについてほとんど知識がなかったので、彼のルーツや思想が知れてとても面白かった。またご本人をさほど知らないがゆえに「実物と違う…」といった違和感もなく、オースティン・バトラーの美しさがまぶしかった。
まだ人種差別が激しかった時代、黒人居住区の中の貧しい白人専用住宅で育ち、黒人の文化やブラックミュージックに触れて育ったエルヴィスは、R&Bやブルースとカントリー&ウエスタンを融合させ、それまでになかった斬新な音楽のスタイルを生み出していくが、「白人が黒人の音楽を歌っている」と激しいバッシングにあい、腰を動かしながら踊るその姿は反社会的な危険人物だとされて、投獄か兵役かの決断を迫られもする。キング牧師の暗殺やケネディ大統領銃撃事件で「自分に何ができるか」と葛藤して曲を書き上げる姿、死の直前のライブで歌い上げた「Can’t Help Falling in Love」など、魂のこもったパフォーマンスには心を打たれた。
エルヴィスを搾取し、骨の髄までしゃぶり続ける強欲なマネージャーをあのトム・ハンクスが演じていたのも面白かった。実際にどういったやり取りがされていたのかは分からないけど、あんな風に国内にずっと閉じ込めてショーを続けさせただなんて。他に頼れるマネージャーがいれば日本にも来れていたのだろうか。
最後、「彼は私が殺したのではない。ファンからの愛によって殺されたのだ」と、パーカー大佐言い訳かとも思えるようなモノローグが入る。初見では「何を言っているんだ」と思ったけれど、時間が経ってからこのセリフの意味について考えている。才能、美貌、カリスマ性、人を惹きつけずにはいられない魅力は人を狂わせて、結果的に身を滅ぼしまうということはあると思う。お金もそうかもしれない。「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディも、「ロケットマン」のエルトンも(それ以外のロックスターもきっと)もれなくドラッグにハマり、一生かかっても使いきれないはずのお金がなくなるという事態に陥っている。
他人にも多大な影響を与えて、一生を狂わせてしまうほどの才能を持ってしまった人が人格や生活を尊重され、人として健やかに過ごすには、ファンからの愛だけではなく、話を聞いてくれる身近な人間、彼に何も求めずにハグしてくれる相手や、自分から無償の愛を与えられる存在がきっと必要だったのだろう。
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