王室で育てられた雉は、王子に撃ち落とされるか、車に轢かれる運命【スペンサー ダイアナの決意】ネタバレあり感想

映画レビュー
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バッキンガム宮殿へと続く道路に横たわるキジの死骸。その道を、カーキ色の英国軍用車両が次々と通り過ぎていく。 軍用車両のタイヤはキジの頭のすれすれを走りすぎるも、1ミリも乱れず、キジの頭を潰すことなくきっちりと通り過ぎ、ケンジントン宮殿の敷地内へ。軍人たちは宮殿に次々とコンテナボックスを運び込む。 中には一体何が入っているのだろう?武器か?死体か?いや、それらはクリスマスのごちそうのための食料品だった。

こんな感じで不穏なシーンと不気味な音楽と共に映画が始まったので、私は間違えてホラー映画を観に来たのか?と思った。

チャールズ皇太子と結婚し、ウィリアム王子とハリー王子という2人の男児をもうけたダイアナ元皇太子妃。その美貌とファッションで日本でも当時は大人気だったと聞く。彼女の生涯といえば、チャールズ皇太子との離婚後の交通事故による死が有名だが、この映画はそういったスキャンダルやドラマの部分ではなく、彼女がその後の人生を決断したとされる、クリスマスの3日間だけが描かれる。 ゆえに映画もダイアナ妃の内面世界を描くことに終始している。特に面白いと思ったのは、ダイアナ妃がアン・ブーリン(ヘンリー8世と結婚するも、夫に不貞の濡れ衣を着せられ斬首刑となった15世紀の女性)と自分を重ね合わせており、たびたび彼女の幻覚を見る点だ。アン・ブーリンといえばナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソン主演の「ブーリン家の姉妹」も面白かった。

ダイアナ妃は当時、チャールズ皇太子の浮気、自由のない宮殿での暮らし、伝統を重んじる宮殿の体制や執拗に彼女にカメラを向けるパパラッチに精神を蝕まれ、拒食症や自傷行為を繰り返していたようだ。 クリステン・スチュワート演じるダイアナ妃は本当に美しく、英国王室の伝統を体現する形でのお姫様の姿が求められることは理解できなくもないが、鑑賞しながら段々と猛烈に腹が立ってきた。英国王室だから、歴史と伝統があるからと言ってこんなことが許されていいのか。人権よりも大事なものなんてないだろうと。王室の人権軽視問題というのは日本でも遠くない話だが、もう現代と合わないような伝統は見直そうよ、と思ってしまった。

またこれは女性に限った話でもなく、チャールズ皇太子やウィリアム王子は、ある種の諦めを持っているようだ。 度々ニュースにもなる「英国王子の初の雷鳥狩り」もそう言った伝統の一つで、英国王室では彼らの狩りのためにキジが育てられ、時が来れば狩りで撃ち殺される。王室で育てられたキジは、敷地の外を出ても飛ぶことができず車に轢き殺されるそうだ。(映画冒頭に出てくるキジはそのうちの一羽だった)チャールズ皇太子もウィリアム王子も、本音では狩りなんてしたくない、動物を殺すなんて嫌だと言う本音を吐露しているのが印象的だった。

ダイアナ妃の最期を知っているため、どんな映画の終わり方でもハッピーエンドという気分にはなれないが、こういった映画が作られ、きちんと上映されるところに意義があるなと思った。また、たとえ大きな事件が起きなくても、英国王室やバッキンガム宮殿はやはり大画面で見ているととても魅力的で、国民がこの姿を求め続ける気持ちもやはり理解できてしまった。

そして、シャネルが全面協力ということもあり、途中からこれはダイアナ妃のファッションショーか?と思われる唐突なシーンもあったが、シリアスなシーンを抜きにしてもファッションが好きな方なら見ていて楽しめると思う。

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